ピアノのペダルの役割

 ピアノのペダルの名称・役割について解説します。

【アップライトピアノ】

ピアノ2

右ペダル:『ダンパー・ペダル』

・ペダルを踏むと、ダンパー(フェルト)が全ての弦から一斉に離れる。
・ダンパーが離れることにより、音が切れずに伸びる(響く)。
・おそらく最も有名なペダルで、これを踏み踏みしながら弾くと、ピアノが弾ける人っぽく振る舞える。

中央ペダル:『マフラー・ペダル(ソステヌート・ペダル※)』

・いわゆる消音ペダル。ペダルを踏むと、ピアノ内部の弦とハンマーの間にフェルトが下がり、音が小さくなる。
・ペダル付け根の溝が逆L字型になっており、踏み込んだ状態で左にスライドさせることで、踏んだ状態を固定することができる。
 ※一部のアップライトピアノでは、グランドピアノのソステヌート・ペダルと同じ働きをするものもある。

左ペダル:『ソフト・ペダル/シフト・ペダル』

・ペダルを踏むと、音がやや小さくなる。
・ペダルを踏むとハンマーが動き、弦に近づくため、鍵盤はほぼ動かない。
・古くなったアップライトピアノだと、このペダルを踏むと鍵盤がグラグラになる。押した鍵盤が戻ってこない。
・『ソフト・ペダル』、『シフト・ペダル』と呼ばれるが、どちらも同じ。

 右のペダルはダンパー・ペダルです。このペダルの役割は、ピアノを弾かない人でもなんとなくご存じの方が多いのではないでしょうか。このペダルを踏むと、音が伸びます(ドーーっと響く)。ピアノは内部の全ての弦に、常にバンパー(フェルト)が押し当てられていて、鍵盤を押すと、押した鍵盤の弦のバンパーのみが個別で上がります。鍵盤を押している間は音が伸びるでしょう。(ハンマーは弦を叩いた直後に離れる。)鍵盤を押している間、音が伸び続ける(鳴り続ける)のは、内部でバンパーが上がりっぱなしだからです。ダンパー・ペダルを踏むと、このバンパーが個別の鍵盤に対応した弦だけではなく、全ての弦から一斉に離れます。同じ「ド」の音を一つだけ弾いたとき、ダンパー・ペダルを踏んでいるときとそうでないときを比べると、ダンパー・ペダルを踏んでいるときの方がなんとなくピアノ全体に音が響いているような気がします。これは、全ての弦がバンパーから開放されているため、弦同士が共鳴していることが要因の一つとして考えられます。

 中央ペダルはマフラー・ペダルです。グランドピアノの中央ペダルはソステヌートペダルなのですが、アップライトピアノでは消音ペダルになっています。アップライトピアノは一般家庭に導入するユーザー層が多く、このペダルを踏むと弦とハンマーの間に薄いフェルト生地(のようなもの)が下りてきて、ハンマーがフェルト越しに弦を叩くことによって、音が小さく(マナーモード状態)なります。同じく音を小さくするソフト・ペダルと違う所は、ソフト・ペダルは演奏表現の幅を広げるために用いること(実際に、音を小さくする度合いが全く異なります。)。ペダル溝が逆L字型になっていてロックがかけられるのも、常時消音状態を保って演奏できるようにするためです。ただ、一部のアップライトピアノでは、消音ペダルと同じ役割を果たすスイッチが別に設けられ、中央ペダルはグランドピアノと同じくソステヌートペダルがついているものもあります。

 左のペダルはソフト・ペダルです。このペダルを踏むと、音が若干弱く(小さく)なります。これはグランドピアノのシフト・ペダルを模したものなのですが、グランドピアノとは違い、ハンマーが動くだけなので鍵盤は動きません。人によって、「ソフト・ペダル」と呼んだり、「シフト・ペダル」と読んだりしますが、どちらも同じです。アップライトピアノを「ソフト・ペダル」、グランドピアノを「シフト・ペダル」と呼び分ける人もいます。ちなみに、年季の入ったアップライトピアノだと、ソフト・ペダルを踏むと鍵盤がグラグラになります。(めちゃくちゃ押しごたえがなくなって、鍵盤を押すと戻ってこなくなります。)

【グランドピアノ】

ピアノ3

右ペダル:『ダンパー・ペダル』

・ペダルを踏むと、音が伸びる(響く)。
・アップライトピアノのダンパー・ペダルと、役割は同じ。

中央ペダル:『ソステヌート・ペダル』

・ペダルを踏んだ時点で押している鍵盤の音のみ、伸ばす。(ダンパー・ペダルの効果を個別にかける。)
・上級者でも使用したことのない人が多く、最も使用する機会の少ないペダル。
・その使用頻度の低さから、一部のグランドピアノでは初めから付いていないモデルもある。

左ペダル:『シフト・ペダル/ソフト・ペダル』

・ペダルを踏むと、音色がやや変化し、音がやや小さくなる。
・ペダルを踏むとハンマー等のアクションそのものが動くため、鍵盤全体が右に数ミリ動く。
・『シフト・ペダル』、『ソフト・ペダル』と呼ばれるが、どちらも同じ。

 右のペダルはダンパー・ペダルです。このペダルを踏むと、音が伸びます。役割はアップライトピアノと同じです。中級以上の曲(特に印象派)になってくると、ペダルを半分だけ踏んで演奏する『ハーフ・ペダル』も使います。ちなみに、ピアノは1つの音に対して1本~3本の弦をハンマーで叩いているのですが、ピアノによっては高音域の弦に4本目の弦を備えているモデルがあります。この4本目の弦はハンマーで叩かない共振(共鳴)用の弦で、音をより豊かにするために備えられています。

 中央ペダルはソステヌート・ペダルです。このペダルを踏むと、踏んだ時点で押している鍵盤のダンパーが、鍵盤から指を離しても上がりっぱなしになり、音が伸び続けます。ペダルを踏み続けている間は、伸びている音の鍵盤を押すと更に音が伸びますが、他の鍵盤を押しても音は伸びません。3本のペダルの中で(というより、ピアノの全ての操作で)最も使用する機会の少ないペダルです。このペダルの使用頻度が低くなっている要因の一つとして、ソステヌート・ペダルが、ピアノの機構の中で比較的新しく取り入れられたものであることが挙げられます。例えばクラシック曲だと、バッハやショパンの時代には、まだソステヌート・ペダルは存在しません。ドビュッシーの時代ではすでに登場していますが、それでもまだまだ一般には普及しませんでした。現代でも、グランドピアノによっては初めからこのペダルが付いていない、2本ペダル(ダンパー・ペダル、シフト・ペダルのみ)のモデルがあります。

 左のペダルはシフト・ペダルです。役割はアップライトピアノのソフト・ペダルと同じなのですが、構造の違いから、アップライトピアノとはやや異なる効果をみせます。シフト・ペダルを踏むと、ハンマー等の鍵盤のアクション全体が右に数ミリ程度ずれて、音がやや小さくなるだけでなく、若干音色が変化します。ピアノは一つの音を、1~3本の弦をハンマーで叩くことによって鳴らしています。シフト・ペダルでアクション全体を横に動かすことで、「叩く弦を3本から2本に、2本から1本に」というように変化させます。また、(ハンマーも横にずれることから)弦と接触するハンマーヘッドの位置が変わり、硬度も微妙に変化します。これらのことから、シフト・ペダルを踏むと音がやや小さくなり、音色が若干変化します。ちなみに、音色は柔らかい(悪く言うと曇ったような)音に変化するのですが、この変化をつけたくないために、楽譜のu.c.※を無視してシフト・ペダルを使用しない演奏者が稀にいます。シフト・ペダルを使用せずに小さな音で演奏するには、高い技術が求められます。

※『u.c.(ウナ・コルダ)』
 「一本の弦で」という意味で、この記号のある所からシフト・ペダルを踏む。シフト・ペダルを解除する位置は、「3本の弦で」を意味する『t.c.(トレ・コルダ)』で表される。

ソステヌート・ペダルの深読み

 ドビュッシーの時代には、すでにソステヌート・ペダルが存在していました。しかし、ドビュッシーはこのペダルについて、特に言及していません。しかし、『前奏曲集 第1集 沈める寺』には、低音を長く響かせ続けながら演奏するなど、「おそらくソステヌート・ペダルを意識したのではないか。」と思われる部分があります。現在販売されている楽譜には、”ソステヌート・ペダルを踏む”という明確な指示がないものが多いです。これは筆者(あさ)の考えですが、ソステヌート・ペダルを使用することによって、より豊かな演奏表現ができる可能性が広がることは確かであり、例え指示がなくても考え方を柔らかくして、使用していくことは十分にありだと思います。
 一部のグランドピアノでは、初めからソステヌート・ペダルが搭載されていません。小学校・中学校・高校の音楽室に設置されているグランドピアノの多くは、2本ペダルのグランドピアノです。ソステヌート・ペダルは上級の曲でもほとんど使用しないペダルなので、なおさら普通の学校での授業では、まず必要がないのでしょう。ソステヌート・ペダルを省いて、より安価にするメリットの方が圧倒的に大きいのでしょう(´・ω・`)

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